『SFマガジン』2025年8月号
雑誌コード:01975-08
刊行日:2025/06/25
ウィリアム・ギブスン特集という事で購入。
8月に『ニューロマンサー』の新版、また『カウント・ゼロ』、『モナリザ・オーヴァドライヴ』、『クローム襲撃』の新版も出版予定だそうだ。サイバーパンクの雰囲気が好きで意味はあんまり理解していない浅いファンな私でも嬉しい。
『ニューロマンサー』刊行40周年という事でウィリアム・ギブスンのインタビューや評論、エッセイが最初にあり、ありがたい事に『スプロール』3部作などのブックガイドや用語集も載っているので新版が刊行するまでいつでも取り出せる場所に置いておかなければ。
連載の感想は上手く書けないので読み切りの感想(ネタバレを含みます。)
・『カササギを絞め殺す』著:津久井五月
ある人物が人を絞め殺す短いシーンの後、地下駐車場の車の中で二人の男、浅見天馬と佐野典真が会話をする所から物語が始まる。この二人はカジノに行きギャンブルをするのだが、この行動があまりにも奇妙だ。二人で行動しているのに周りの人びとは一人しかいないように扱い、さらに浅見天馬は首を180度曲げてずっと佐野典真の方を向いているのだ。ここで浅見天馬が人間ではない事に気づくのだが、行動の主体がどう読んでも浅見天馬であり、奇妙な感じが残り続ける。その違和感の正体はギャンブルで仲良くなった多良一浩と浅見天馬(と佐野典真)の会話で判明する。この時代では模倣技術(ミミクリテック)というAI技術が普及している。これはAIによって最適な言葉と振る舞いを半透明なアバターが実演し、それを人間が模倣する事によって物事を円滑に進めるための技術だ。佐野典真は模倣技術で理想の人物、浅見天馬を作り出し、それを模倣して人とコミュニケーションをしている。この舞台設定を理解するのに少し時間がかかったが、飲み込めてしまえば後半はスイスイと読める(内容はかなり暗くて重いが)。描写が丁寧でバカラの絞り(スクイーズ)、金刺卓哉という三下悪役や佐野典真の心情など難しく考えなくてもエンタメとして軽く楽しめる。またねっとりと読んでみると模倣技術が人間を支配する前の段階という絶妙な雰囲気を感じられるのもいい。人によって意見が割れると思うが私は模倣技術が普及していくこの社会の未来に自己の消失が見えた。作中で模倣技術を利用する人は不気味とか違和感があると描写されるがそれは理想の振る舞いをするアバターにはない自己、すなわちアバターとは別人であるという認識が模倣技術を使う人間には残っているからだと私は考える。実際に模倣技術を使うのが上手な佐野典真もアバターに別の名前を与え、自分とは別の存在だと認識している。しかし、模倣技術が発展していくにつれ、アバターの模倣がやりやすくなり、成果を出せるようになった結果、模倣技術を手放せない佐野典真のような人間が増え、使い続ける事によって理想のアバターと自分の境界がなくなり人間の自己が喪失する。そんな未来が暗示されているほのかな絶望が佐野典真の人生を通じて感じられるのがこの作品ならではの良さだと感じた。
・『天正アポカリプス』著:高木ケイ
兵糧攻めにあっている城にこもっている百姓の一人が仏様に関する奇妙な夢をたので、乞食坊主に相談しに行く所から物語が始める。最初は名前にアポカリプスと入っている割には文明が残っている感じがするなと思ったが、いざ読み終わってみるとなるほど仏様とアポカリプスを組み合わせた面白いSFだなと納得した(アポカリプスを世紀の終末、大災害をいう意味で私は捉えている)。初めて読んだ感じのSFなのと私自身あまり仏様や仏教観に詳しくないので上手く説明できないが、前半の兵糧攻めによる城内に蔓延る荒廃感と種明かしされてからの後半の荒廃感のスケールの違いはあれどどこか似ている所のあるこの奇妙な感覚をどうにか言語化してみたいと思った。
気になった本一覧
・『成層圏の墓標』著:上田早夕里
電子デバイスに擬態する寄生生物や夜にしか雨が降らない世界など内容が気になったのもあるが、紹介された「化石屋の少女と夜の影」がどうにも読んだことがあるような気がするがオチがどうしても思い出せない。
・『エルギスキへの旅』著:森下一仁
シャーマン文化と科学が融合したSF世界における少年の青春小説という雰囲気が魅力的。プターク書房という聞きなれない出版社からでているなと思ったらクラウドファンディングで出版された本とのこと。うかうかしていると絶版になってしまい手に入らなくなりそうなので積んでる本を読み切って早く手に入れたい。
・『圖書室のキハラさん』著:丸山 薫
漫画雑誌『ハルタ』の帯で連載されていたショートコミックをまとめたもの。表紙の眼鏡娘が可愛かったのでそのうち買う。KADOKAWA公式HPでは圖書室ではなく図書館と表示されていたので探す時は気を付けよう。
・『Transmentation Transience Or, an Accession to the People's Council for Nine Thousand Worlds(魂転 流転 あるいは九千世界の人民評議会へ至る道)』
ダークリー・レムというSF作家5人組のユニットが書く、マルチバースを主題としたシリーズの第一作目。なろう系小説並みの題名の長さは置いておくとして舞台は平行宇宙を次々と支配していく巨大宇宙国家ブーレル・ハード。この宇宙を中心として多彩な宇宙を股にかけながら多数の登場人物が活躍する群像劇らしい。詳しいあらすじは『マルチ・マルチバース』著:鳴庭真人に書いてあるのだが、設定がなかなか複雑そうで読み応えのあるハードなSFなのでこの夏の自分の課題図書にしてみようか。e-honで頼めるようにISBNをメモしておく。
ISBN:9798212185998 まだハードカバーしか出てなさそう。
カラーページでちょろっと紹介されていたインディーズゲームがちょっと面白そうだったので自分用にメモ
↓『オートログ』Steamの購入ページ 690円
https://store.steampowered.com/app/3553210/_/?l=japanese
ストーリーも探索もない戦闘のみのゲームで、敵との対戦前にスキルと条件を設定し、後はオートで進めてくれる手軽にプレイできそうな感じとドット絵が気に入った。価格もお手ごろなので金欠なのにフルプライスのゲームを連続で買ってしまいそうな時にプレイしようかと思う。
次号の2025年10月号はホラーSF特集で8月25日発売予定だ。予告を見てホラー宇宙SF『妄想感染体』(早川書房)を読みたかった事を思い出した。特集で取り上げられるかもしれないので早めに読まなければ。
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